今日はある物語をご紹介いたします!
「本物の虎」
遠い国の動物商の動物倉庫で、何段にも積み上げられた檻の中の兎たちが、お互いの姿は見えずに檻越しに話をしている。
一匹の兎が言うには、
「おい、俺は虎を知っているんだぞ」
他の兎たちは、虎など見たことも聞いたこともなかったので、檻の中で見知らぬ動物、虎の話に真剣に耳を傾ける。
また、別の兎が言うには、
「その虎だったら、俺なんかもっとスゴい虎を知っているよ」
「へー、それはスゴいね。聞かせて聞かせて」
「そりゃあ、虎って勇敢だしさ、できれば毛皮の下が虎だったらなあ」
「兎だって、修練すると虎になれるって聞いたよ」
そこへ、隣の檻に新しい動物が入ってくる。
「さっきの虎の話って、面白そう。もっと聞かせてよ」
兎たちは、お互いの話に驚きながらも、毎日あれこれと虎を想像しながら楽しんでいた。
さて、兎たちは、ある日、一斉に檻から出されることになった。
順番に檻から出てゆく兎たちの目を、釘付けにしたものがあった。
隣の檻から出てきた動物を見た兎たちは、その場で凍ってしまったかのように見えた。
毎日、一緒に虎の話を聞いていたはずの、新しく来た動物は、なんと!一匹の虎だったのだ。
虎は、いつもと変わらず楽しそうに
「ねぇまた皆で虎の話を。しようよ」
と、兎たちの顔を順ぐりに見つめる。
あれほど、兎たちが楽しみにしていた虎との出会いなのに
兎たちは、驚いてしまって、目前の動物を虎とは、にわかに信じられない。
陰でコソコソと、兎たちは話を始める。
「あれは、本当に虎かな、虎の皮を被った兎かもしれない」
「そうだ、そういうこと、あるって聞いたぞ」
「聞いた聞いた、最近多いんだってさ」
「あのシマシマ模様って猫に似てるから、本当はやっぱり虎じゃないでしょ」
「うん、そうねぇ、虎ってホラ、猫から来ているわけじゃない?」
虎は、さっぱり訳がわからない。
つい、さっきまで楽しく虎の話をしていたのに自分の姿を見たとたんに、態度を豹変させた兎たちを理解できないでいる。
虎は、兎たちに言った。
「ねぇ、君たち、さっきと今とで何が変わったというんだい?」
「君たちは、いったい何を望んでいたの?」
「虎が好きだと思ったんだがなあ」
「虎になりたかったんじゃないの?」
兎たちは、あわてて言い訳をする。
「いや、僕たちは、君を虎だと思ってないわけじゃなくて・・・」
「虎の話はしてたけどさ、別に本物の虎を見たいとかではなくて・・・」
虎は笑いながら言う。
「君たちは虎の話をする。そして、虎になりたいと言う、それだけなんだね」